あこのこわれたる指環、この指環に真《まこと》の価《あたひ》の籠もつてゐるとは、恐らく百年の後ならでは、何人《なんぴと》にも分りますまい。
何だか改まつてお話を致しませうと存じましたら、もう胸がいつぱいになつて参りました。忘れも致しませぬ、私がこの指環を私の手にはめる事となりましたのは、今よりてうど五年前のことで、私が十八の年の春でありました。私はちようどその春結婚致しましたので……夫から贈られたものなんです。けれどもただ今で申します契約の指環なぞと申すつもりで与へられたものではありません、ただ何心なく私に買つてくれましたものでござりますが、今から申せば、これを契約の指環と申しても差支へはないのでございませう。
全体その節、私が結婚致しました頃などは、女子教育の種子《たね》が、ようやくちらほらと、蒔《ま》かれたと申す位の時でござりましたから、私も今日の思想の半ばをすら持ちませず、殊《こと》に私は地方におりましたものですから、同じ五年前でも、東京の五年前とはよほど違ひまして、西洋人の夫婦間のありさまなどは、全く夢にも見ました事はござりませず、また完全なる婚姻法はどんなものと申す事も聞か
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