する人よ、その様な婦人のあるならば、始めより私を迎へぬがよし、また迎へし位ならば、さような事を止むべきにと、思ひましたが、もとよりさる事を口外致す筈でないと、独り心に秘めまして、をもしろからぬ月日を送ツておりました。それから後と申すものは、三月より四月、四月より五月と、だんだんに夫の外出が繁々《しげしげ》になりまして、遂には三日も四日も、いづれへか行きて、家に帰らぬことなどもありました。始めの内は、私も二晩三晩も眠らないで、待つておりましたが、幾夜も続きますと、もうそうそうは眼も続かず、ついとろとろと眠る事もありましたが、もの事と申すものは、何てもあいにくなもので、さような晩に限りまして、夫は深更に帰つて参りました。門を叩く音がふと耳に入りまして、急ぎ戸をひき開くれば、夫は酒気を芬々とさせながら、私を睨み付けまして、「なんだ、先刻《さつき》にから戸の破れる程叩いたじやあないか、なぜ開けない、隣家《となり》へ聞こえても不都合じやないか、夫を戸外に立たせておいて、優々閑々と熟睡しておるとは、随分気楽な先生だ」など、囁《つぶや》かるる心苦しさ。それらの事は、忍ぶ事も出来ますが、夜中《やちゆう
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