のとぎに、傍へ参つておりました。そして私が手紙を認めてゐますのをつくづくと見まして、どうも、奥様は、結搆なお手を持つてゐらつしやいます、先の奥様はと、うつかりと申しました。私はその先の奥様という詞《ことば》が、フツと耳にとまりまして、「ヲヤ、私のさきに、誰か居たの」と、思はず下女の貌を見詰めました、この下女は、私よりもズツと以前にこの家に傭はれて参つたので、何もかもよく存じてゐますのですから、今私に問ひかけられ、余儀なくこう答へました。「ヲヤ、私と致しました事が、ついうつかりと……、かような事を申しましては、旦那さまの御叱りを蒙りませうが、もう仕方がござりませんから、申し上げませう、それはあなたのお越になる五六日前までも、このお家に居たお方がありましたので、たしか旦那さまが、書生さんの時分に、下宿なすツてゐらしつたお宅の娘さんなそうでござイます」と、一部始終を語りました。さては、昼間のあの使ひ……、多分……と思ひましたが、下女の手前さる気色は見せられずと、わざと冷淡に、そう、そうかへと、聞き流しに致して、おきました。けれども、この時から、何となく心持が悪しくなりまして、誠につまらぬ事を
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