ましても、ああお母《つか》さんや姉さんと一所にここへ来たならばと、そればかり思ふておりました。その内、ある日の事でした。十五六ばかりの小女《おんな》が、どこからか手紙を持つて使ひに参りました。下女は何心なく執次《とりつ》いで、私の傍へ持つて参りますを、夫は何故か急き手を差延べまして、こちらへ持つて来ればいいじやないかと、下女を睨《にら》みつけました。私は何の事だか少しも分らず、つまらぬ事に腹を立てる、怖らしい人よと、ふと心に思ひました。夫はやがて、かの手紙を見終りていつになくくるくると巻いて袂へ入れ、いづれこちらから返事するといひ置けと、下女に申し付けて、かの使ひを戻しました。そしてその晩の事でした、ちよつと近所まで散歩に行つてくるからと申して出て行きましたが、十時になつても、十二時になつても、帰つて来ず、私はぜひ夫の帰りますまではとぞんじまして、褥《しとね》をも敷かせず、幸いの折からと、学校の友達へ送る手紙など認《したた》めておりました。その内、だんだん夜も更けて参りますから、私はとにかく下女などは休ませやうとぞんじまして、先に寝かしましたが、一人の下女はお淋しからふからと申して、私
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