の粘《ねば》ねばした、泥のような、異様な怪物は、その死人のような白い眼でじっと僕を睨んでいるらしく、そのからだからは腐った海水のような悪臭を発し、濡れて垢《あか》びかりのした髪は渦を巻いて、死人《しびと》のようなその顔の上にもつれかかっていた。僕はこの死人のような怪物と格闘したが、怪物は自分のからだを打ちつけて僕をぐいぐいと押してゆくので、僕は腕がもう折れそうになったところへ、生ける屍《しかばね》の如きその怪物は死人のような腕を僕の頭に巻きつけて伸《の》しかかってきたので、とうとう僕は叫び声を立ててどっと倒れるとともに、怪物をつかんでいる手を放してしまった。
 僕が倒れると、その怪物は僕を跳《おど》り越えて、船長へぶつかっていったらしかった。僕がさっき扉の前に突っ立っていた船長を見たときには、彼の顔は真っ蒼で一文字に口を結んでいた。それから彼はこの生ける屍の頭に手ひどい打撃を与えたらしかったが、結局彼もまた恐ろしさのあまりに口もきけなくなったような唸《うな》り声を立てて、同じく前へのめって倒れた。
 一瞬間、怪物はそこに突っ立っていたが、やがて船長の疲労し切ったからだを飛び越えて、再び
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