こちらへ向かってきそうであったので、僕は驚駭《きょうがい》のあまりに声を立てようとしたが、どうしても声が出なかった。すると、突然に怪物の姿は消え失せた。僕はほとんど失神したようになっていたので、たしかなことは言われないし、また、諸君の想像以上に小さいあの窓口のことを考えると、どうしてそんなことが出来たのか今もなお疑問ではあるが、どうもかの怪物はあの窓から飛び出したように思われた。それから僕は長いあいだ床の上に倒れていた。船長も同じように僕のそばに倒れていた。そのうちに僕はいくぶんか意識を回復してくると、すぐに左の手首の骨が折れているのを知った。
僕はどうにかこうにか起きあがって、右の手で船長を揺り起こすと、船長は唸りながらからだを動かしていたが、ようようにわれにかえった。彼は怪我をしていなかったが、まったくぼう[#「ぼう」に傍点]としてしまったようであった。
さて、諸君はもっとこのさきを聞きたいかね。おあいにくと、これで僕の話はおしまいだ。大工は彼の意見通りに百五号の扉へ四インチ釘を五、六本打ち込んでしまったが、もし諸君がカムチャツカ号で航海するようなことがあったらば、あの部屋の
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