といっても、僕は明らかに証拠立てることの出来る奇怪の事実であった。現に僕は二度までも窓の戸をしめ、しかも二度目には自分のステッキで螺旋鍵《ねじかぎ》を固くねじて、真鍮の金具を曲げてしまったという点だけでも、僕は大いにこの不可思議を主張し得るつもりであった。
「あなたは、私が好んであなたのお話を疑うとお思いのようですね」と、船医は僕があまりに窓のことを詳しく話すので微笑《ほほえ》みながら言った。「私はちっとも疑いませんよ。あなたの携帯品を持っていらっしゃい。二人で私の部屋を半分ずつ使いましょう」
「それよりもどうです。わたしの船室においでなすって、二人でひと晩を過ごしてみませんか。そうして、この事件を根底まで探るのに、お力添えが願えませんでしょうか」
「そんな根底まで探ろうなどとこころみると、あべこべに根底へ沈んでしまいますよ」と、船医は答えた。
「というと……」
「海の底です。わたしはこの船をおりようかと思っているのです。実際、あんまり愉快ではありませんからな」
「では、あなたはこの根底を探ろうとする私に、ご援助くださらないのですか」
「どうも私はごめんですな」と、船医は口早に言った。
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