「わたしは自分を冷静にしていなければならない立場にあるもので、化け物や怪物をなぶり廻してはいられませんよ」
「あなたは化け物の仕業《しわざ》だと本当に信じていられるのですか」と、僕はやや軽蔑的な口ぶりで聞きただした。
 こうは言ったものの、ゆうべ自分の心に起こったあの超自然的な恐怖観念を僕はふと思い出したのである。船医は急に僕の方へ向き直った。
「あなたはこれらの出来事を化け物の仕業《しわざ》でないという、たしかな説明がお出来になりますか」と、彼は反駁《はんばく》してきた。「むろん、お出来にはなりますまい。よろしい。それだからあなたはたしかな説明を得ようというのだとおっしゃるのでしょう。しかし、あなたには得られますまい。その理由は簡単です。化け物の仕業という以外には説明の仕様《しよう》がないからです」
「あなたは科学者ではありませんか。そのあなたが私にこの出来事の解釈がお出来にならんと言うのですか」と、今度は僕が一矢をむくいた。
「いや、出来ます」と、船医は言葉に力を入れて言った。「しかし他の解釈が出来るくらいならば、私だって何も化け物の仕業だなどとは言いません」
 僕はもうひと晩でも
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