風を胸いっぱいに吸った。僕は知らず識らずのうちに船尾の船医の部屋の方へむかってゆくと、船医はすでに船尾の甲板に立って、パイプをくわえながら前の日とまったく同じように朝の空気を吸っていた。
「お早う」と、彼はいち早くこう言うと、明らかに好奇心をもって僕の顔を見守っていた。
「先生、まったくあなたのおっしゃった通り、たしかにあの部屋には何かが憑《つ》いていますよ」と、僕は言った。
「どうです、決心をお変えになったでしょう」と、船医はむしろ勝ち誇ったような顔をして僕に答えた。「ゆうべはひどい目にお逢いでしたろう。ひとつ興奮飲料をさし上げましょうか、素敵なやつを持っていますから」
「いや、結構です。しかし、まずあなたに、ゆうべ起こったことをお話し申したいと思うのですが……」と、僕は大きい声で言った。
 それから僕は出来るだけ詳しくゆうべの出来事の報告をはじめた。むろん、僕はこの年になるまで、あんな恐ろしい思いをした経験はなかったということをも、つけ加えるのを忘れなかった。特に僕は窓に起こった現象を詳細に話した。実際、かりに他のことは一つの幻影であったとしても、この窓に起こった現象だけは誰がなん
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