然ではないか。
それでもなお、僕は自分の感覚を疑ったので、つとめて心を落ち着かせて、これは下《くだ》らないことだとも思った。薬味付きのパンを食ったのが腹に溜《たま》っていたので、悪い夢を見たのだろうと思いながら、自分の部屋へ引っ返したが、からだが痛むので、歩くのが容易でなかった。部屋じゅうはゆうべ僕が目をさました時と同じように、よどんだ海水の臭いで息が詰まりそうであった。僕は勇気を鼓《こ》して内へはいると、手探りで旅行鞄のなかから蝋燭の箱を取り出した。そうして、消燈されたあとに読書したいと思うときの用意に持っている、汽車用の手燭に火をつけると、窓がまたあいているので、僕はかつて経験したこともない、また二度と経験したくもない、うずくような、なんともいえない恐怖に襲われた。僕は手燭を持って、たぶん海水たびしょ濡れになっているだろうと思いながら、上の寝台を調べた。
しかし僕は失望した。実のところ、何もかも忌《いや》な夢であった昨夜の事件以来、ロバートは寝床を整える勇気はあるまいと想像していたのであったが、案に相違して寝床はきちんと整頓してあるばかりか、非常に潮くさくはあったが、夜具はまる
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