うべは窓があけ放しになっていた。僕の同室の男は乗船して来たときから病人じみてはいたけれども、彼が寝床へはいってからは更に気違いのようになっていた。とは言うものの、あの男は船中のどこかに隠れていて、いまに発見されるかもしれないが、とにかく、あの部屋の空気を入れ替えて、窓を注意してしっかりしめておく必要があるから、もしも私にもう御用《ごよう》がなければ、部屋の通風や窓の締りがちゃんと出来ているかどうかを見とどけて来たいと、僕は船長に言った。
「むろん、あなたがそうしたいとお思いなら、現在の所におとどまりなさるのはあなたの権利ですけれども……。私としては、あなたにあの部屋を出ていただいて、すっかり錠をおろして、保管しておかせてもらいたいのです」と、船長はいくらかむっ[#「むっ」に傍点]としたように言った。
 僕はあくまでも素志を曲げなかった。そうして、僕の同室の男の失踪に関しては全然沈黙を守るという約束をして、船長の部屋を辞した。
 僕の同室の男の知人はこの船中にいなかったので、彼が行くえ不明になったからといって、歎く者は一人もなかった。夕方になって、僕はふたたび船医に逢った。船医は僕に、決
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