心をひるがえしたかどうかを聞いたので、僕はひるがえさないと答えた。
「では、あなたもやがて……」と言いながら、船医は顔を暗くした。

       三

 その晩、僕らはトランプをして、遅くなってから寝ようとした。今だから告白するが、実を言うと、自分の部屋へはいった時はなんとなく忌《いや》な感動に胸を躍《おど》らせたのである。僕はいくら考えまいとしても、今ごろはもう溺死して、二、三マイルもあとの方で長い波のうねりに揺られている、あの背丈《せい》の高い男のことが考え出されてならなかった。寝巻に着替えようとすると、眼の前にはっきりと彼の顔が浮きあがってきたので、僕はもう彼が実際にいないということを自分の心に納得《なっとく》させるために、上の寝台のカーテンをあけ放してみようかとさえ思ったくらいであった。
 なんとなく気味が悪かったので、僕も入り口の扉の貫木《かんぬき》をはずしてしまった。しかも窓が不意に音を立ててあいたので、僕は思わずぎょっとしたが、それはすぐにまたしまった。あれだけ窓をしっかりとしめるように言いつけておいたのにと思うと、僕は腹が立ってきて、急いで部屋着を引っかけて、受け持ち
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