こう言いながら、僕は船医にシガーをすすめた。彼はそれを手にすると、よほどの愛煙家とみえて、どこのシガーかを鑑定するように眺めた。
「湿気などは問題ではありません。とにかくあなたのお体に別条ないということはたしかですからな。同室のかたがおありですか」
「ええ。一人いるのです。その先生ときたら、夜なかに戸締りをはずして、扉《ドア》をあけ放しておくという厄介者なのですからね」
船医は再び僕の顔をしげしげと見ていたが、やがて[#「やがて」は底本では「やがで」]シガーを口にくわえた。その顔はなんとなく物思いに沈んでいるらしく見えた。
「で、その人は帰って来ましたか」
「わたしは眠っていましたが、眼をさました時に、先生が寝返りを打つ音を聞きました。それから私は寒くなったので、窓をしめてからまた寝てしまいましたが、けさ見ますと、その窓はあいているじゃありませんか……」
船医は静かに言った。
「まあ、お聴きなさい。私はもうこの船の評判なぞはかまっていられません。これから私のすることをあなたにお話し申しておきましょう。あなたはどういうおかたか、ちっとも知りませんが、私は相当に広い部屋をここの上に
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