意そうに言った。
「ときに、ゆうべは馬鹿に寒かったようでしたね。もっとも、あんまり寒いのでほうぼう見まわしたら、窓があいていました。寝床へはいる時には、ちっとも気がつかなかったのですが、お蔭で部屋が湿気《しけ》てしまいました」と、僕は言った。
「しけていましたか。あなたの部屋は何号です」
「百五号です」
 すると、僕のほうがむしろ驚かされたほどに、船医はびっくりして僕を見つめた。
「どうしたんですか」と、僕はおだやかに訊《き》いた。
「いや、なんでもありません。ただ最近、三回ほどの航海のあいだに、あの部屋ではみなさんから苦情《くじょう》が出たものですから……」と、船医は答えた。
「わたしも苦情を言いますね。どうもあの部屋は空気の流通が不完全ですよ。あんな所へ入れるなんて、まったくひど過ぎますな」
「実際です。私にはあの部屋には何かあるように思われますがね……。いや、お客さまを怖がらせるのは私の職務ではなかった」
「いや、あなたは私を怖がらせるなどと、ご心配なさらなくてもようござんすよ。なに、少しぐらいの湿気は我慢しますよ。もし風邪でも引いたら、あなたのご厄介《やっかい》になりますから」
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