情を言ってやる時のうまい言葉をあれやこれやと考えながら、また、うとうとと眠ってしまった。そのうちに、僕の頭の上の寝台で同室の男が寝返りを打っている音がきこえた。たぶん彼は僕が眠っている間に帰って来たのであろう。やがて彼がむむう[#「むむう」に傍点]とひと声うなったような気がしたので、さては船暈《ふなよい》だなと僕は思った。もしそうであれば、下にいる者はたまらない。そんなことを考えながらも、僕はまた、うとうとと夜明けまで眠った。
船は昨夜よりもよほど揺れてきた。そうして、舷窓《まど》からはいってくる薄暗いひかりは、船の揺れかたによって、その窓が海の方へ向いたり、空の方へ向いたりするたびごとに色が変わっていた。
七月というのに、馬鹿に寒かったので、僕は頭をむけて窓のほうを見ると、驚いたことには、窓は鉤《かぎ》がはずれてあいているではないか。僕は上の寝台の男に聞こえよがしに悪口を言ってから、起き上がって窓をしめた。それからまた寝床へ帰るときに、僕は上の寝台に一瞥《いちべつ》をくれると、そのカーテンはぴったりとしまっていて、同室の男も僕と同様に寒さを感じていたらしかった。すると、今まで寒さ
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