Bおれは、まぶたの危険にとずるがごとく、ひらりと体をかわした。と、どすうん、というものすごい音とともに男ははずみをくらって、それまでおれがうしろだてにしていた工事場の材木に骨もくだけよとばかり、空をきって激突した。ふたりは瞬時にしてふたたび二間の距離をおいて相対した。男はいまの空撃でよほどまいったのであろう、とがった口から血をぽたりぽたりとたらしつつ真白な息をはき、胸が波のようにふくれたりちぢんだりしている。あたりは依然として死のような静寂、――十秒ばかりの沈黙があった。
おれの右手三尺のところに腐ったまるたんぼう[#「まるたんぼう」に傍点]がおちている。おれとしてはふたたびきりこんでくるであろう相手の切れものを、なんとかしてはらいおとさねばならぬ。はらえないまでもせめて相手の体の一部分でもうちこまねばならぬ。身をかがめてその棒きれをひろいあげる隙にやつはけもののように突進してくるに相違ないのだが、このままではよほど相手がうぶでなければいっそう敵しがたい。そのうちにもじりじりとせまってくる。もはや一刻のゆうよもない。おれはいち[#「いち」に傍点]かばち[#「ばち」に傍点]かの骰子《さ
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