ヒめつけてつったっている。すかしみて、野郎きやがったな、と思った。その男こそ体にあわぬパジャマをき、まっかになって女の首をしめつけていた例の兇漢ではないか。右手のにぶいうごきにつれ、鋭利なジャック・ナイフがきらきらと月光を反射した。あれからのちのおれの行動を監視していて、口をふさぐためここまで尾行してきたに相違ない。おれだって場数はふんでいるし、剣道には自信がある。喧嘩もまんざらきらいのほうではない。体はもうこれ以上骨がじゃまでやせられないほどの骨皮筋右衛門だが、骨格には自信がある。相手が無手なら三人まではらくにひきうけられるのだが、この場合無手ではなし、しろうとではなし、犯行をしられているだけに必死にとびかかってくるに相違ない。わるくするとおだぶつだ。
 おれはできるだけおだやかに答えた。
「なにか用か」
「…………」
「…………」
「――みたか」
 男はやがて、おしつぶしたような、かさけのある嗄《しわが》れ声で、眼は依然おれをねめつけながら、ゆっくり、念をおすようにいった。
「みた」
 おれがこう答えるのと、男の体がはやてのように体あたりにとびかかってくるのとが、ほとんど同時だった
前へ 次へ
全36ページ中24ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
西尾 正 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング