したものか屍体を前にして頑強にそれが房枝さんで無い、人違いだと主張し、俺の女房は綺麗な着物を着た美人だと叫んで居るが、屍体は裾の摺り切れたよれよれの銘仙を着した儘発見せられた[#「屍体は裾の摺り切れたよれよれの銘仙を着した儘発見せられた」に傍点]。目下原因を精密に調査中である。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから2字下げ、38字詰め、罫囲み]
昨夜十一時頃浅草寿座出演中のダンデイ・フオリイズ・レヴュウ団専属女優美貌の踊児《ダンサー》島慶子(25[#「25」は縦中横]歳)が本郷湯島天神境内にて突如暴漢に襲われた。顔面其他に数個の打撲傷を負い、其場に昏倒して居るのを暁方になって境内の茶屋業主人成田作蔵さんが発見し、驚いて交番に駈けつけたものである。其夜慶子嬢は何故か大島の対、黒羅紗のモヂリを着し男装をして居た。現場に日本髪用の簪《かんざし》ピン、女下駄等が捨てられてある所より、痴情怨恨から犯人は女性ならんとの見込みもあるが、現場に数片に裂けたステッキの遺棄ある所より主犯は矢張り男で、其の杖で殴打したものであろう。慶子嬢は意識を取戻したが、此の暴行事件に就いては単に女の介在して居る事
前へ
次へ
全46ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
西尾 正 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング