ば閣下は「お前の女房は焼け死んだのではないか[#「お前の女房は焼け死んだのではないか」に傍点]」と反駁《はんばく》なさるかも知れませんが、私は他ならぬ其の誤謬《ごびゅう》を正し私と共々此の不気味《ぶきみ》な問題を考えて頂き度いのでありますから、短気を起さずと何卒先を読んで下さいまし。※[#終わり二重括弧、1−2−55]それは昨年の二月、日は判乎《はっきり》と記憶にはありませんが、何でも私の書いた原稿がM雑誌社に売れてたんまり稿料の這入った月初めの夜の事でありました。現在でも私は高円寺《こうえんじ》五丁目に住んで居りますが、其の頃も場所こそ違え同じ高円寺一丁目の家賃十六円の粗末な貸家を借りて、妻の房枝《ふさえ》と二歳になる守《まもる》と共々に文筆業を営んで居たのであります。元々私の生家は相当の資産家で、私が学生で居る間は、と申しましても実際は一月に一時間位しか授業を受けず只単に月謝を払って籍を置いて居たに過ぎませんが、其の間は父から毎月生活費を受けて居たのでありますが、一度学校を卒えるや、其の翌日から、――前々から私の放蕩無頼《ほうとうぶらい》に業を煮やして居た父は、ぴたりと生活費の支給
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