を止めて了《しま》ったのでありまして、そうなると否でも応でも自分から働かねばならず、幸か不幸か中学時代から淫靡《いんび》な文学に耽溺《たんでき》して居た御蔭で芸が身を助くるとでも謂《い》うのでありましょうか※[#始め二重括弧、1−2−54]玉ノ井繁昌記※[#終わり二重括弧、1−2−55]とか※[#始め二重括弧、1−2−54]レヴュウ・ガァルの悲哀※[#終わり二重括弧、1−2−55]とか云う低級なエロ読物を書く事に依って辛《かろう》じて今日迄|口《くち》を糊《のり》して参ったのであります。或る秘密出版社に頼まれて、所謂好色本の原稿を書き綴って読者に言外の満足を与えた事も再三でありました。……
偖《さて》、斯《こ》うして家庭が貧困の裡《うち》に喘《あえ》いで居乍らも、金さえ這入れば私は酒と女に耽溺する事を忘れませんでした。病的婬乱症《ニムフォマニイ》――此の名称が男子にも当て嵌るものであるならば、其の当時の私の如き正に其の重篤患者に相違ありませんでした。最早《もは》や二歳の児がある程の永い結婚生活は、水々しかった妻の白い肉体から総《すべ》ての秘密を曝露し尽して了いまして、妻以外の女の幻影
前へ
次へ
全46ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
西尾 正 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング