故私が是程の動揺を受けたのかと申しますと、それは妻の不貞の事実よりも、――それはそれとしてさして問題にす可き事柄ではありませんし、――其の時高円寺の襤褸家《ぼろいえ》で口を開け高鼾で眠って居る妻の姿を想像すると同時に、今其の家で別のもう一人の妻を発見した[#「別のもう一人の妻を発見した」に傍点]と言う、彼の恐ろしい DOPPELGAENGER《ドッペルゲエンゲル》 の神秘を想起したからで有りました。閣下は、茲で二重体《ドッペルゲエンゲル》を持ち出した事に、わっはわっはと呵々大笑なさる事でしょう。乍然《しかしながら》、閣下よ、是は古今東西に屡々実例を見る動かし難い事実で有りまして、其の実例を挙げる者が何々教授何々博士と、――無学文盲の徒に非ずして、謂わば最高の科学的智能を備えた学者達で有ると云うのは、何たる皮肉で御座いましょう。詳しい事は独逸の Dr.WERNER(|〔Die Reflexion u:ber dem Geheimnis〕《神秘の省察》)(|〔Die Untersuchung fu:r die Geistes Welt〕《心霊界の探求》)の二書に就いてお知り下さいまし。閣下
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