の疑惑は茲に確定的なものと成りました。一時は恟ッと致しましたが表面は益々落着いて、あんな綺麗な女の色男になるなんて果報者だな、其の果報者は何処の何奴だと空呆《そらとぼ》けて訊きますと、相手は一層調子に乗って来て、それはそれは綺麗な美男子なのよ、恰《まる》で女見たいな。貴方、浅草の寿座《ことぶきざ》に掛って居る芝居見た事ある? 其の人は一座の女形《おやま》なんですって、今夜も既《も》う今頃はお娯しみの最中よ、そりゃ仲が良くって、妾達|妬《や》ける位だわ、と野放図も無く喋り立てます。最後に私の確信にとどめ[#「とどめ」に傍点]を刺す心算《つもり》で、おふささんは何処に住んで居るんだい、まさか高円寺じゃあるまいね、と大きく呼吸をし乍ら質しますと、あら、やっぱし高円寺よ、屹度《きっと》おんなじ女じゃない? 何でも男の子が一人有るんですって、でも御亭主が御亭主だからおふささんも大っぴらで好きな事をして居るらしいのよ、と淡々然と答えたので有ります。酒精《アルコール》の切れた時の私の心臓は非常に刺戟に弱いのでありまして、男の子が一人あると聞いた瞬間はドクドクと物凄い速力で暫しの間鳴って居りました。何
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