う情人が付いて居て、其の夜も其の男の来るのを待って居るとの事で有りました。此の家で馴染に成ったのか、と重ねて訊きますと、ええそうよ、今は迚《とて》も大熱々の最中よ、フリのお客なんかテンデ寄せ付けないわ、貴方、一眼惚れ?――と突込んで参りますので、いや飛んでもない、よしんば惚れた所で他人《ひと》の情婦《いろ》じゃ始まらない、只一寸気んなる事があったんでね、ととぼけますと、気んなる事って何あに、此方が却って気ンなるミタイダワ、と来ますので、名前はおふささんと云うんだろ、実はあの女《ひと》と同じ名前の、而《しか》も顔から姿迄そっくりの女を知って居るんでね、何かい、あの人は丸髷を結って居たが、人の細君なのかい、旦那は何をして居るんだい?――とさり気無く追及して参りますと、相手は聊か此方の熱心に不審を抱いたものか、一寸の間警戒の色を示しましたが、生来がお喋りなので有りましょう、ええそうよ、お察しの通りよ、何でも御亭主って云う人が破落戸《ならずもの》見たいな人で、小説書き[#「小説書き」に傍点]なんですって、文士って駄目ね、浮気|者《もん》が多くって、貴方、文士だったら御免なさい、と答えました。私
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