、たれこめた鼠色《ねずみいろ》の雲の堆積から、さながら、にじみ出るかのように、濃い、乳色の気体《きたい》が立ちならんだ人家の上を、通りの中を、徐々に、流れはじめたのでございました。私は、その頃、少しばかり買物がございましたので、三《さん》の宮《みや》の『でぱあと』まで出むいていたのでございます。買物と申しましても、別に、あの辺りまでわざわざ行かねばならぬ訳もなかったのでございますが、今になって考えますれば、たとえ、何の理由がなくとも、あの日、ああした場所まで、出かけるように、前の世から定められていたのでもございましょうか。……私は、『でぱあと』で、新柄の京染や、帯地の陳列を見せて頂き、かえりには、お母さんのお好きな金つば[#「金つば」に傍点]でも買ってあげましょう――と、かように考えまして、参ったので、ございました。

 あのような日和《ひより》でございましたので、さすがに、繁華街にある、『でぱあと』の中も、人はまばらでございました。私は、まず、八階まで昇り、京染と帯地の陳列を見せて頂き、それから、七階、六階と歩いては、階段から降りて行ったのでございます。階段に面した側は、丁度、山手と
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