あの方々は、私のことをご存じであったのでございましょう。――さては、話に聞いていたのは、この娘さんのことでもあろうか、真実《ほんとう》にわたしによく似た方もあるもの、この人なれば、仲間うちのものが、下町風に身を※[#「にんべん+峭のつくり」、第4水準2−1−52]《やつ》した自分とも思い違えて、こちらの袖に物をかくすほどのことは無理からぬこと、さぞや、おかえりになって、立派な指差がころげ落ち、驚かれたことでもあろう。こんなことをも、お考えになったでございましょう。それと同時に、あのような――私をご自分の傀儡《かいらい》にして、御隠居さまともどもに港の街をはなれさせ、お上の注意をそちらへむけた内に大きなお仕事をなさる計画も、おたてになったのでございましょう。御隠居さまや、お千代さまがお考えになりましたように、お上の方は、御隠居さまにつれられた私を、ほんもののお千代さまとお考えになったのでございましょう。それがために、わざわざあの遠い湯の町まで、後を追ってお越しになり、私たちの様子を見まもっていられたのです。しかし、これはお二人さまの予期されていましたこと、それでこそ、必要な場合には――犯
前へ 次へ
全28ページ中25ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
酒井 嘉七 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング