ましても、若い娘の身で、そうしたことは、あまりにも、はしたないと考えまして、旅だちの前に御隠居さまに買っていただきました、島原模様の振袖に絵羽模様の長襦袢、それに、塩瀬の丸帯まで、すっかり、来たときそのままの身仕度をととのえまして、
「では、伯母さま、ちょっと行かせていただきます」
 と、ご挨拶いたし、お部屋を出たのでございます。ところが、私といたしましたことが、宿を出て、道の一、二丁も参りましたとき、思いついたのでございますが、御隠居さまの御用を承《うけたま》わって来ることを、失念いたしていたのでございます。
(これは、大変なことを、御隠居さまとても、お土産を買っておかえりにならねばなるまいに、自分のことだけを考えて、御隠居さまのご用事を、つい忘れてしまいました)
 私は、こんなに自分で申しながら、そして、われと我が粗忽《そこつ》さに、思わず、顔を赤らめながら、宿のお女中には、表で待っていただき、お部屋にとってかえしたのでございます。しかし、表玄関から、廊下をつたって行きましては、時間もかかりますこととて、お庭づたいに、離れのお部屋へ急いだのでございます。ところが、いつもは、障子も開
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