除の男衆が、箒《ほうき》や熊手などを手に、そっと頭を下げて通りすぎるようなことは、別に不思議でもないのでございますが、そうした下男のお一人に、いかにも、何か目的あるかのように、そっと、お部屋をのぞいては通りすぎるお方があったのでございます。顔をなるべく、見せないようにしていられますものの、どこかでお目にかかったような気がいたしまして仕方なかったのでございました。
「たしかに、どこかでお目にかかった方」
私は、かように、考えつづけて、おりましたが、ふと、思い出すと、
「おお、そう」
と、御隠居さまの方に向き直り、声を低めて、
「伯母さま。今、通って行きました、男衆に、お気づきになりましたか、あの人は、私たちが、出帆《しゅっぱん》いたします時、伯母さまと話していられた、ご親類の方に、そっくりでございます」
と、こんなに申しまして、口の中で、いくら似ているとは言え、あれほど、似ている方があろうことか、と独白いたしました。が、それと同時に、長い間、すっかり忘れておりました、あの私自身の姿を思い出しまして、思わず、ぞっとしたのでございました。御隠居は、
「そうでございますか、そんなに、あの
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