ことができるもの――
手にした撥を、投げつけることが出来るもの――
と、かように考えねばならないでございましょう。そうすれば、当時から行方が分らなくなった猿と、この殺人事件とを結びつけることに、さした不合理もないではございますまいか。それに、この犯人[#「犯人」に傍点]が、子を殺された親猿といたしますれば、色々と、合点のいく節があるではございませぬか。後見をなさっていた、名見崎東三郎さまの陳述にもございました様に、あの
※[#歌記号、1−3−28]|真如《しんにょ》の月を眺め明かさん
のところで、手にした中啓で金烏帽子を跳ね上げた後に、岩井半四郎が、
「綱に……綱に……」
と、申されたと、いうでございましょう。これを後見の名見崎さまは、烏帽子を綱にかけよ、との意味に解釈いたされたのでございますが、この時には、撥を手にした猿が、綱を渡って、造りものの鐘に近よっていたのではございますまいか。しかし、姿はすっかり、天井からたれ下った、しだれ桜の幕にかくれて、見物席からは見えなかったのでございましょう。それに、役者衆から、鳴物の御連中、舞台裏の方々までこの日本一の踊りを見んものと、総
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