件と考えられるような、人の死に出逢いました場合、それが、右の内のどれにあたるであろうか――と、かように考えることも、無駄ではございますまい。概略的な、そして、漠然とした分類のいたしかたではございますものの、これらのうち何れかの範疇に入らぬ殺人事件はございますまい。では、この河原崎座の殺人事件は、このうちの何れに属するものでございましょう。――まず、
(一)の被害者の自己殺人――これにあたりはいたしますまいか。いえ、決して、そうとは考えられないでございましょう。若し、あの撥をわれとわが頭に打ちつけたといたしますれば、あの撥はどうして手に入れたのでございましょう。半四郎は、師匠のいられた楽屋附近へは、幕あきの前に近よっていません。そうすれば、あの撥が半四郎の手に渡る筈がないではございませぬか。
 そうすれば、(二)に記しましたような、自然的な理由による死でございましょうか。いえ、そうでも御座いますまい。撥が、上から、ひとりでに、落ちて来たのではあるまいか、という様に考えるといたしましても、それには、撥に羽が生えて、独りでに、楽屋から飛んで来、舞台の上に吊されている鐘の中にはいっていた――と
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