まは、後見でございますから、比較的接近していられましたものの、一間あまりは、最後に、鐘が上りますまで、ずっと、離れていらっしたのでございます。そういたしますれば、いまも、申しましたように――このお三方に嫌疑がかかるとすれば――あの造りものの鐘から、近くは、五六間、遠くて、十間から二十間も離れずに、この絢爛たる踊りの舞台をご見物になっていた、観客の方々にも、同じ程度の嫌疑を、おかけするのが当然でございましょう。しかし、それにいたしましても、衆人環視の、歌舞伎の舞台でそれも、造りものの鐘の中で、姿なき者の手によって遂行されて殺人現場に残された物的証拠は、象牙の撥、ただの一本。と、かように申しますれば、この事件が、いまだ、はっきりと解決されずに残されているのも、故あることとお考えになるでございましょう。
|○|[#「|○|」は縦中横]
その筋の方々も、この事件には、すっかり、お困りになったご様子でございました。一座の方々、長唄、鳴物、囃子のご連中から、道具方の皆様がたまで、ひと通りのお取調べがあったようでございまして、そのはてには、楽屋の入口で、下足番のような仕事をいた
前へ
次へ
全54ページ中42ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
酒井 嘉七 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング