りまして、ともすれば、三味線と離ればなれにもなりそうで御座いました。しかし、さすがに、踊りにかけては名人と申すのでございましょうか、そうしたことも、巧みに、手振り、足ふみに紛らわされ、お気づきになった方は、一座の内、座方の中にも、幾人もございますまい。それに、三味線から、ともすれば、離れようといたしますのも、ある方々は、それを、立三味線を弾いていらっしゃる、新三郎さんの罪にし、一のお弟子さんといいながらも、やはり、師匠の新次さんでないと、岩井半四郎の糸は出来ない――なぞと、知ったか振りをなさる通人もあったようでございました。
半四郎師匠の異様な興奮は、唄が進みますとともに、ますます烈しくなって参りまして、踊りの中で、こうしたことがあったのでございます。それは、鐘に恨み――の文句の終りに
※[#歌記号、1−3−28]|真如《しんにょ》の月を眺め明かさん
と、いう歌詞がございますが、ここで、白拍子が冠っている金烏帽子を、手にもつ、中啓《ちゅうけい》で跳ね上げるところがございます。ところが、この前後で、踊っていらっしゃる半四郎師匠が、
「綱に……綱に……」
と、二たこと申されたのでご
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