でございます。しかし、いずれにもいたせ、新次師匠が申されておりますように、誰かが、あの撥で、白拍子に扮した半四郎さまを、鐘の中で襲うた、といたしましても、その方法はどう説明されるのでございましょうか。師匠が指摘されておりますように、舞台に降りている、造りものの鐘を傷つけないで、その中へ、ああしたものを投げ込む――こうしたことが、どうして可能でございましょう。ご存じになります様に、鐘の頂上には、七八寸ほどな丸さの空気ぬきがございます。しかし、それにいたしましても、舞台の横から投げた撥が、どうして、あの穴からはいり、内部の人を傷つけることが出来るでございましょう。――たとえ、舞台の天井から、その空気ぬきの穴をねらって投げこんだといたしましても、それでは、どうして、被害者の前額部に傷がつくでございましょう。それに、投げられた撥が、小屋いっぱいに溢れた見物衆の、誰の目にもとまらないというようなことがございましょうか」

        |○|[#「|○|」は縦中横]

 このお二方の次には、岩井半四郎の後見をお勤めになりました、一座の名見崎東三郎が、取調べをおうけになったのでございました。この
前へ 次へ
全54ページ中32ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
酒井 嘉七 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング