時、舞台にうつ伏った、半四郎の傍で発見されたのでございました。――こうした理由で、私の長唄のお師匠が、この殺人事件の第一の被疑者になられたのでございますが、客観的に考えて見ますれば、それは、あまりにも、当然なことでございましょう。
師匠は、その筋の方に、次のように語っていられるのでございます。
|○|[#「|○|」は縦中横]
私が娘道成寺の際に折あしく、持病の癪を起し、出演いたしませんでしたこと、私の象牙の撥が、あの造りものの鐘の中にあったことを考えますれば、私が第一に嫌疑をうけるのは当然のことでございましょう。――しかし、私自身と、あの殺人事件との間に、どうした関係がございましょう。
私が、あの撥を、三味線箱から取り出しましたのは、娘道成寺の開幕に二十分あまり前でございました。私は、自分の癖――または、たしなみといたしまして、三味線や撥は決して、弟子の手にまかしはいたしません。この日も、自分の手で取り出し、糸の工合を調べた上で、撥を手に取りあげたのでございました。その瞬間に、癪が起ったのでございました。私は、撥と三味線をそこに、なげすてるように置きまして、
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