した過程を経まして、今日では、地唄《じうた》、歌沢《うたざわ》、端唄《はうた》と同じ様に、純然たる家庭音楽になっているのでございます。しかし、そうは申しますものの、唯今の様に普及される迄には相当に、生れ出ずる悩みがあった様でございます。その第一は、長唄のあるものは、とても美しく唄っては御座いますものの、随分と、そうでない個所があった様でございます。例えば、伊勢音頭にいたしましても、こうした一節がございます。
 ※[#歌記号、1−3−28]流れの泉色も香も愛《めで》給わればいそいそと花に習うてちらりとそこに情の通う若たちの心任せに紐ときて上の下のととる手も狂うヨイヨイヨイヨイヨンヤサソレヘ
 ※[#歌記号、1−3−28]豊な御代に相逢はこれぞあたいのなき宝露もこぼさずすなおなる竹の葉影に組重ねあかぬ契りのあかしにはあけの唇ぬっくりと月花みゆきひとのみに傾け捧げ乱れざしヨイヨイヨイヨイヨンヤサソレヘ

 それに、作詞家の間違いか、それとも、唄本の版元が飜刻《ほんこく》の際に過ったものが、そのまま、後世に伝りましたものか、時として、唄の意味が通じなかったり、とても変な場合があるのでございます
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