れる様になったのでございます。しかし、幸吉さんは、決して、自分が犯人ではない、と極力弁明していられました。私が御面会いたしました時にも、
「広子さん。たとえ、誰が何と云いましても、あなただけは、私が犯人でない事を信じて下さるでしょう」
と、申されました。私は、幸吉さんがお可愛想になって思わず涙を溢《こぼ》しました。
「ええ、信じますとも……」
こう申したのでございます。そして、声を低くめまして、
「幸吉さん、御心配なさいますな。私が、きっと、犯人を探してごらんに入れますわ」
と申しました。すると、幸吉さんは、
「え、広ちゃんが……」
と思わず叫ばれました。
「ええ、私に思いあたることがございますの」
私は、きっぱりとこう申しました。
五
かような事を申しますと、甚だ、生意気な様でございますが、皆様の中には、長唄という様なクラシックな日本音楽について、何も御存じない方が、おありになるかも知れないと存じます。そうした方の御参考までに、この純日本趣味な音楽について、少しばかり、申し述べて見たいと存じます。私が今、手許においております百科全書には「長唄」という項
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