れるようにすがりついた。
『どうした? どうした?』と大佐は夫人を抱きしめた。
来客一同も、思わず水を浴びたように固くなって、窓の方を見た。
『どうしたんだろう? どうも怪しい。あのベルの装置を知っているのは私より他にないはずだ!』
と、今度は俄かに電燈が一時にパッと消えて、あたりは真の闇になった。そして下から上まで、部屋々々の電鈴が耳も聾《ろう》せんばかりに一時に鳴り初めた。
一同は、狂人のようになってうろたえさわいだ。逃げ惑った。婦人達は悲鳴をあげて泣きわめき、男達は締めた戸口に折重なり、どんどん戸を叩き押しあいへし合い、我勝に逃げ出ようとして人を突飛ばし、倒れ、踏みつけた。ちょうど狂犬に追われるか、爆弾を投げつけられたような騒ぎであった。
大佐は声をはげまして、その混雑を制しようとした。
『どうぞお静かに、騒がないで下さい‥‥大丈夫です。今|灯《あかり》をつけます。スイッチがここにあるんですから‥‥この隅に‥‥』
大佐は客を掻きわけて陳列室の角に行った。電燈はサッとともった。と、同時に電鈴の音もパッタリと止った。
三
『壁布は?』
『ある!』
前へ
次へ
全37ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
婦人文化研究会 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング