で、この間の壁布の紛失事件の時でもひどく恐れを抱いて、こんな物があるとどんな怖ろしい事になるかもしれないから、いくらでもかまわない、早く手離した方が安心だとしきりに夫に説いたほどであった。が、大佐はなかなか剛情なたちで、女達の弱音ぐらいにへこむ人ではなかった。従って錦は決して売払われはしなかった。でも十二分の用心をして、設備を加えたり、盗難保険に入ったりした。
 第一番に、庭の方に向いている、家の正面だけを警戒したら足るようにと、裏の方のジュフレノアイ街に向いた方は、下から上まで、窓も入口もすっかり壁を塗りつぶしてしまった。更に錦の飾られている室《へや》の窓という窓に、秘密の装置を施して、ちょっとでもこれに触れると、家中の電燈が一時《いっとき》にパッとともり、同時に電鈴がけたたましく鳴りひびく仕掛にした。
 保険会社の方では、それにもなおあき足らず三人の探偵を選んで、給料は先払とし、夜になると、この邸の階下にあって警戒させた。三人の探偵は経験もあり手練《しゅれん》の刑事で、ルパンを仇敵のように思っている者ばかりであった。
 大佐邸の使用人は、長年使いなれてその性質はわかっているので、大
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