第二に、庭を通れば壁や梯子を掛けねばならぬが、そこには何等の形跡をも、何等怪しむべき点をも見出すことが出来ないのはどうしてだろう? 第三に、あれほど周到なる警戒設備が整っているのに、邸内の電燈電鈴にいささかの故障なく、その鎧戸や鉄格子をどうして開けることが出来ただろう?
疑問の石は水の表面に投げ入れられた。波は起って広がった。
まず警戒の任にあたった三人の探偵にこの波は打ち当った。予審判事はこの三人を長い事取調べたが、そしてまた彼等の私的生活についても詳細に探られたが、三人が三人、その行為は最も正しく、いささかも後ろめたいような点はなかった。
こうして盗まれた綴れ錦の壁布――予備陸軍大佐の死に値する愛蔵――の行方はいかん? 波は広がった。いよいよ高く逆巻くように広がった。
ここに警視庁刑事主任ガニマール氏はソーニャ・クリシュノフの王冠事件の後、ルパンの部下より探知したたくさんの証拠を握って、ルパンの跡を追い廻していたが、何の得る所もなく、ふらりと巴里《パリ》に帰って来た。帰ってみれば、今まで自分が追い掛けていたはずのルパンがこの大事件を起しているのであった。ガニマール氏はまた
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