下したものでなくとも、彼の明を以てすれば明らかに自殺を予想することが出来たであろうに‥‥ここに流血の惨事を惹起した罪は到底彼の免がるべからざる所である。彼の名前に、終に紅い血汐《ちしお》が塗られた。これ神人共に許す能わざる所である‥‥』

          四

 知るも知らぬもスパルミエント未亡人に同情をよせた。と同時にアルセーヌ・ルパンを憎むこといよいよ甚しくなった。中にも前夜招待された人々は、殊に悲痛に心を乱し、嘆き沈んで身も世もあらぬ未亡人を取囲んでは、口には言わねど、伝説のエジスにさも似たる悲惨な身の上に涙をそそいだ。
 しかしまた、遺憾なくこの窃盗に成功したルパンの非凡なる手の中《うち》には誰も舌を巻いて感嘆せぬわけにはゆかなかった。警察は直ちに盗出方法を説明した。それは陳列室の窓が三つ開け放されてあったことが探偵の調べによって判明したが、ルパンやその手下はこの窓から忍び入ったのであるというのである。
 その推定は当っているかもしれない。でも第一、庭の門をどうして入ることが出来ただろう? 誰れにも見咎められず、どうして入って、どうして帰り去《さり》つることが出来ただろう?
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