相違ないことを知ると、ようやく安心した刑事は言葉忙しく言い出した。
『至急、十人ばかり人を出して下さい。』
『よし!』
『あなたもどうか御一緒に!』
『承知した。どこだ?』
『例の家の、階下の部屋に。しかしお出で下さる時には庭の門まで迎えに出ます。』
『わかった! 自動車だろうね? もちろん。』
『はい、十歩ばかり手前で自動車を留めて、口笛を吹いていただけば、すぐ門を開けます‥‥そっと吹いて下さい‥‥家の者に聞えないように。』
五
捜索課長は主任刑事の請求通り、直ちに出張の命令を下した。
ガニマール刑事は真夜中少し過ぎた頃、家の燈がすっかり消されて、真暗になったのを見計って階下を出てジュズイ氏を待っていた。
口笛は静かに鳴った。門は音もなく開かれた。会見はひそかにかつ敏捷《びんしょう》に行われた。巡査等はすべて主任刑事の命令の下に行動した。捜索課長と主任刑事の二人は足音を忍ばせて庭を通って、家の中に入った。
『一体どうしたんだ?』
『‥‥‥‥』
『何だい、この態《ざま》は? まるで泥棒のようなじゃないか。』
『‥‥‥‥』
捜索課長は、色々ガニマールに囁いたが、ガニマールは返事もしなかった。課長は彼の挙動の尋常でないのを見て取った。課長は彼のこんなに昂奮している様をかつて見たことがなかった。
『どうした。変った事があるのかい?』
課長も引入れられて緊張せざるを得なかった。
『はい、今度こそは、課長! しかし実に自分にも信ずることが出来ないような事件です。[#「。」は底本では欠落]でも、断じて誤っていません。全く真相を掴みました。事実とは思われない事実です。全く、嘘でも誤解でもありません。真実です。』
主任刑事は額の汗[#「汗」は底本では「汚」]を押し拭いながら、充血した眼を上げてこう云った。彼は冷水をグッと飲みほして気を落ちつけると更に語を続けた。
『これまで私は何度も何度も失敗《しくじ》りましたが、今度こそは‥‥』
『そんなことはどうでもいい。事件の方を、結局どうした?』
『いや、細かく云わねばお解りになりませんよ。私の実験したいろいろの事情を申上げねば‥‥合理的な順序であることがお解りになりませ[#「せ」は底本では欠落]んよ。』
ガニマールの意外な意気込に、課長も声を落して聞き入った。
『これまで何度もの失敗に、私はさんざんな
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