かけました。
「恩しらずのどちくしょうめ。」と、そのけものは、おそろしい声でさけびました。「おれは、お前のいのちをたすけて、この御殿にとめてやったのではないか。それが、なによりおれのだいじにしている、ばらの花をぬすむとはなにごとだ。その代価《だいか》は、お前のいのちの血で払《はら》わせるぞ。」
商人は、かわいそうに、ふるえ上がって、怪獣の前にぺったりひれ伏《ふ》しながら、
「とのさま、おゆるし下さい。おしかりをうけることとは存じませんでした。ついむすめから、みやげに、一りんばらの花をといって、のぞまれましたものですから。どうぞ、いのちだけはおたすけ下さいまし。」といいました。
「おれは、とのさまではない。ただのけだものだ。」と、怪獣はいいました。「おれは、おべんちゃらはきらいだ。口さきのあまいことばで、つべこべごまかすことはやめてもらおう。だがお前、むすめがあるそうだな。そのなかにひとりぐらい、たぶん来て、お前のいのちに代ろうというものがあるだろうから、それでお前はゆるしてやる。万一、それがいやだというなら、三箇月のうちに、お前がかならず、戻《もど》ってこなければならないぞ。」
商
前へ
次へ
全22ページ中9ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ド・ヴィルヌーヴ ガブリエル=シュザンヌ・バルボ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング