、いつも馬車の先に立ってあるいて行っては、麦刈り、草刈りをしている男とみると、おなじようなことをいって、おどしました。
「王様がお通りになったら、これはみんなカラバ侯爵《こうしゃく》の畠でございますというのだ。そういわないと、おまえたちみんな、挽《ひ》き肉にしてしまうぞ。」
そういってあるいたあとに、すぐ王様は通りかかって、麦畠も、牧場《まきば》もみんなカラバ侯爵《こうしゃく》のものだときかされました。そのたんびに、王様は、カラバ侯爵《こうしゃく》が、たいへんな広い領地《りょうち》をもっているのに、すっかりびっくりしておしまいになりました、そうしてそのたんびに侯爵《こうしゃく》にむかって、
「どうもたいしたご財産《ざいさん》で。」といいました。
このあいだに、猫吉親方は、ひとりさきに、どんどんあるいて行って、とうとう人くい鬼が住んでいる、りっぱなお城へ来ました。この人くい鬼は、世にもすばらしい大金持で、王様が、みちみち通っておいでになった、カラバ侯爵《こうしゃく》のものだという広大《こうだい》な領地《りょうち》も、じつはみんな人くい鬼のものでした。猫吉は、この人くい鬼のことをよく聞いて知っていましたから、そのとき、ずんずんお城の中へはいって行って、
「ご近所《きんじょ》を通りかかりましたのに、あなた様のごきげんもうかがわずに、だまって通る法《ほう》はございませんので、おじゃまにあがりました。」と、さも心から、うやまっているように申しました。
それを聞いた人くい鬼は、すっかり喜んで、人くい鬼そうおうなれいぎで、猫吉をもてなしました。
さて、ゆっくり休ませてもらったところで、猫吉は、おそるおそる、
「あなた様は、ごじぶんでなろうとおもえば、どんなけもののすがたにもおなりになれるのだそうでございますが、それでは、しし[#「しし」に傍点]とかぞう[#「ぞう」に傍点]とかいったような、あんな大きなけものにもおなりになれるのでございますか。」と、たずねました。
すると、人くい鬼は、早口に、
「なれなくってさ。なれなくってさ。よしよし、うそでないしょうこに、ひとつ、ししになって見せてやろう。」
こういって、いきなりししになってしまいました。猫はすぐ鼻のさきに、大きなししがふいにあらわれたので、あわてて、長ぐつのまま、あぶないもこわいもなく、軒《のき》のかけひ[#「かけひ」に傍点]の上にかけあがりました。しばらくたって人くい鬼が、やっと、もとどおりのすがたになったのを見すまして、猫吉はそろそろ、かけひ[#「かけひ」に傍点]からおりて来ました。
「どうも、じつに、おどろきました。わたくしは、今にもひとつかみになさるかと思って、ぶるぶるふるえていたのでございますよ。ところで、これも人から聞きました話で、あてにはなりませんが、あなたはまた、ずっと小さなけもの、たとえばねずみなら、はつかねずみのような小ねずみなんかにでも、なろうとおもえばおなりになれるということですが、まさかねえ、こればかりは、とても信じられませんが。」
こういって、猫は、うたがいぶかいような目をしました。
「なに、信じられん。」と、人くい鬼はおこってさけびました。「よしよし、すぐ小ねずみになって見せよう。」
人くい鬼は、いうまに、一ぴきのはつかねずみにかわってしまいました。そして、ちょろ、ちょろ、床《ゆか》の上をかけまわりました。猫吉はしめたというなり、すばやく、小ねずみにとびかかるが早いか、あたまから、むしゃむしゃと、たべてしまいました。
五
そのとき、お城のそとのつり橋を、王様の馬車のわたってくる音がきこえました。猫吉は、その音を聞きつけると、さっそく、お城の門のところへ出て行って、王様にこう申しました。
「さあ、どうぞ、王様には、カラバ侯爵《こうしゃく》のお城におはいりくださいまするよう。」
王様は、さっきからこのお城に気がついていました。そして、だれのお城だか知らないが、中はさぞかしりっぱだろうから、はいってみたいものだと、おおもいになっていたところでした。ですから、猫吉がそういうのを聞くと、ますますおどろいておしまいになりました。
「なに、これも侯爵《こうしゃく》のお城。いやどうも、お庭といい、建物《たてもの》といい、こんなりっぱなお城は見たことがないわい。では、拝見《はいけん》しよう。どうぞ案内《あんない》をたのみますぞ。」
王様が馬車からおりると、猫吉は、そのあとからついて行きました。カラバ侯爵《こうしゃく》はお姫さまに手をかして、そのあとにつづきました。やがて大広間にはいると、おかざりしたテーブルの上に、りっぱなごちそうがならんでいました。じつは、このごちそうは、きょう、たずねて来るはずの友だちのために、人くい鬼がしたくし
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