ておいたものでした。けれども猫吉は、それがわざわざ、王様やお姫さまのために用意させてあったもののように見せかけました。人くい鬼の友だちも、王様がおいでときいて、えんりょして、かえって行きました。
 やがて、みんなはテーブルについて、ごちそうをたべました。王様は、お姫《ひめ》さまとどうよう、侯爵《こうしゃく》のりっぱなひとがらに、すっかりほれこんでおしまいになりました。そのうえ、侯爵《こうしゃく》が、たいへんお金持なのを知って、なおなお、このもしくおもいました。そこで、五六ぱい、さかずきをあげてから、王様は、
「どうでしょう、侯爵《こうしゃく》、おいやでなかったら、姫と結婚《けっこん》してくださいませんか。あなたは、わたしどもにとっては、申しぶんのない方です。」と、いいました。
 侯爵《こうしゃく》はそのとき、うやうやしく敬礼《けいれい》したのち、王様の申し出された名誉《めいよ》を、よろこんで、お受けすることにしました。そうしてその日、さっそくお姫さまと結婚しました。
 さて、猫吉は、大貴族《だいきぞく》にとり立てられました。それからはもう、やたらにねずみを取ったりしないで、気らくに、その日その日をおくりました、と、さ。

 親ゆずりの財産《ざいさん》に、ぬくぬくあたたまっているよりも、若いものは、自分の智恵《ちえ》と、うでを、もとでにするにかぎります。



底本:「世界おとぎ文庫(イギリス・フランス童話篇)妖女のおくりもの」小峰書店
   1950(昭和25)年5月1日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
入力:大久保ゆう
校正:秋鹿
2006年1月21日作成
青空文庫作成ファイル:
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