く》のお使だと名のっては、いろいろと狩場《かりば》のえものを、王様へけん上《じょう》しました。そしてそのたんびに、猫吉はお金をいただいたり、お酒を飲まされたり、たっぷりおもてなしをうけるうちに、だんだん王様の御殿のようすが分かってきました。

         三

 ある日のこと、猫吉は、いつものように狩場のえものをけん上しに行きました。すると話のついでに、きょう、王様が美しいお姫さまをつれて、川へ遊びにお出かけになるということを聞きこみました。そこで、猫吉は、さっそくかえって来て、主人に話しました。
「もしもし、だんなが、わたしのいうとおり、なんでもなされば、あなたは、じきしあわせになりますよ。それもたいしてむづかしいことじゃないんですよ。だんなはただ、きょう、川まで出かけて、わたしのおしえるとおりの所へ行って、水をあびていればいいんです。そうすれば、あとはばんじ、わたしがいいようにしますからね。」
 カラバ侯爵《こうしゃく》は、そう聞いても、なにがなんだか、ちっともわけが分かりませんでしたが、なんでもかでも、猫吉のいうとおりにしました。さて、ちょうど猫吉の主人、すなわちカラバ侯爵《こうしゃく》が、水につかってからだを洗っているとき、そこへ王様の馬車が通りかかりました。すると、猫吉はきゅうに、火のつくように、かなきり声をあげてさけびたてました。
「助けてください。助けてください。カラバ侯爵《こうしゃく》がおぼれそうです。」
 王様は、このさけび声を聞くと、なにごとかとおもって、馬車の窓から首をお出しになりました、見ると、しきりにどなっているのは、これまでに、たびたび狩場《かりば》から、いろいろと、けっこうなえものを持ってきてくれた猫なので、王様はおそばの家来《けらい》に、はやく行って、カラバ侯爵《こうしゃく》をお助け申せ、といいつけました。
 家来が、いそいで川へおりて行って、カラバ侯爵《こうしゃく》を引きあげているあいだに、猫吉は王様のところへ出かけて行きました。
「わたくしどもの主人が、川につかって、からだを洗っておりますと、わるものがやって来たのでございます。主人はずいぶん大声で、なんども、どろぼう、どろぼうと申しましたのですが、とうとう、わるものは、着物をぬすんで、もって行ってしまいました。ですから、すぐに着る着物がございません。」
 猫吉は、こう王様にうったえました。じつは、その着物は、大きな石の下にかくしておいたのです。けれど、猫のいうことが、さもほんとうらしくきこえるので、王様は、御殿の衣裳《いしょう》べやのかかりにいいつけて、いちばん上等な着物を、いそいで持って来て、カラバ侯爵《こうしゃく》にお着せ申せ、とおっしゃいました。
 王様は、侯爵《こうしゃく》をたいへんていねいにもてなして、ごじぶんの、りっぱな着物を着せました。ところで、猫吉の主人は、生まれつきりっぱなようすの男でしたから、その着物を着ると、いかにも侯爵《こうしゃく》らしい上品なひとがらになりました。それを見た王様のお姫《ひめ》さまは、すっかり侯爵《こうしゃく》がすきになりました。そこで、王様は侯爵《こうしゃく》にすすめて、馬車に乗せて、いっしょに旅をすることにしました。
 猫吉は、じぶんのけいりゃくが、うまくあたったので、だいとくいで、馬車よりも先へあるいて行きました。すこし行くと、まきばの草を刈《か》っているお百|姓《しょう》たちに出あいました。すると猫吉は、
「もうじき王様が馬車に乗ってお通りになるが、そのとき、このまきばはだれのものだ、といっておたずねになったら、これはカラバ侯爵《こうしゃく》のものだと、おこたえしなければいけないぞ。もしそうしなかったら、それこそ植木鉢《うえきばち》にはえたちいさな草を引っこ抜くように、おまえたちの首を、引っこ抜いてしまうぞ。」といって、すっかりお百|姓《しょう》たちを、おどしつけました。
 王様が、やがてそこを、お通りかかりになりますと、なるほど猫吉のおもったとおり、このまきばは、だれのものだ、とおたずねになりました。けれどお百姓たちは、すっかり猫吉におどかされていましたから、
「わたしどものご主人、カラバ侯爵《こうしゃく》さまのものでございます。」と、みんな声をそろえて、こたえました。
 王様は、うまうまと、だまされておしまいになりました。そして、侯爵《こうしゃく》にむかって、まじめにおよろこびをおっしゃいました。
「どうもたいした土地《とち》もちでおいでだな。」
 そこで侯爵《こうしゃく》は、すかさず、そのあとについて、
「ごらんのとおり、このまきばからは、まい年、なかなかたくさんな取りいれがございますので。」と申しました。

         四

 まずこういうやり方で、猫吉|親方《おやかた》は
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