青ひげがこわくて、たれも寄りつけなかったのでございます。
 みんなは、居間《いま》、客間《きゃくま》、大広間から、小べや、衣裳《いしょう》べやと、片っぱしから見てあるきましたが、いよいよ奥ぶかく見て行くほど、だんだんりっぱにも、きれいにもなっていくようでした。
 とうとうおしまいに、いっぱい家具《かぐ》のつまった、大きなへやに来ました。そのなかの道具《どうぐ》やおきものは、このやしきのうちでも、一等りっぱなものでした。かべかけでも、ねだいでも、長いすでも、たんすでも、つくえや、いすでも、頭のてっぺんから、足の爪《つま》さきまでうつるすがたみ[#「すがたみ」に傍点]でも、それはむやみにたくさんあって、むやみにぴかぴか光って、きれいなので、たれもかれも、ただもう、かんしんして、ふうと、ため息をつくだけでした。すがたみのなかには、水晶《すいしょう》のふちのついたものもありました。金銀めっきのふちのついたものもありました。なにもかも、この上もなくけっこうずくめなものばかりでした。
 お客たちは、まさかこれほどまでともおもわなかった、お友だちの運のよさに、いまさら感心したり、うらやましがったり、いつまでもはてしがありませんでしたが、ご主人の奥がたは、いくらりっぱなおへやや、かざりつけを見てあるいても、じれったいばかりで、いっこうにおもしろくも楽しくもありませんでした。それというのが、夫《おっと》が出がけにきびしくいいつけておいていった、地下室のひみつの小べやというのが、しじゅう、どうも気になって気になって、ならないからでございます。
 いけないというものは、とかく見たいのが、人間のくせですから、そのうちいよいよ、がまんがしきれなくなってくると、この奥《おく》がたは、もうお客にたいして、失礼《しつれい》のなんのということを、おもってはいられなくなって、ひとりそっと裏《うら》ばしごをおりて、二ども三ども、首の骨がおれたかとおもうほど、はげしく、柱や梁《はり》にぶつかりながら、むちゅうでかけ出して行きました。
 でも、いよいよ小べやの戸の前に立ってみると、さすがに夫《おっと》のきびしいいいつけを、はっとおもい出しました。それにそむいたら、どんなふしあわせな目にあうかしれない、そうおもって、しばらくためらいました。でも、さそいの手が、ぐんぐんつよくひっぱるので、それをはらいきることは、できませんでした。そこで、ちいさいかぎを手にとって、ぶるぶる、ふるえながら、小べやの戸をあけました。
 窓がしまっているので、はじめはなんにも見えませんでした。そのうち、だんだん、くらやみに目がなれてくると、どうでしょう、そこの床《ゆか》の上には、いっぱい血のかたまりがこびりついていて、五六人の女の死がいを、ならべてかべに立てかけたのが、血の上にうつって見えていました。これは、みんな青ひげが、ひとりひとり、結婚《けっこん》したあとで殺してしまった女たちの死がいでした。これを見たとたん、奥がたは、あっといったなり、息がとまって、からだがすくんで動けなくなりました。そうして、戸のかぎ穴からぬいて、手にもっていたかぎが、いつか、すべり落ちたのも知らずにいたくらいです。
 しばらくして、やっとわれにかえると、奥がたはあわてて、かぎを拾いあげて、戸をしめて、いそいで二階の居間にかけてかえると、ほっと息をつきました。でも、いつまでも胸がわくわくして、正気《しょうき》がつかないようでした。
 見ると、かぎに血がついているので、二三ど、それをふいてとろうとしましたが、どうしても血がとれません。水につけて洗ってみても、せっけんとみがき砂をつけて、といしで、ごしごし、こすってみても、いっこうにしるしがみえません。血のついたあとは、いよいよ、こくなるばかりでした。それもそのはず、このかぎは魔法《まほう》のかぎだったのです。ですから、おもてがわのほうの血を落したかとおもうと、それはうらがわに、いつか、よけいこく、にじみ出していました。

         三

 すると、その日の夕方、青ひげが、ひょっこり、うちへかえって来ました。それは、まだむこうまで行かないうち、とちゅうで、用むきが、つごうよく片づいた、という知らせを聞いたからだと、青ひげは話しました。だしぬけにかえってこられたとき、奥がたは、ぎょっとしましたが、いっしょうけんめい、うれしそうな顔をして見せていました。
 さて、そのあくる朝、青ひげは、さっそく、奥がたに、あずけたかぎをお出しといいました。そういわれて、奥がたがかぎを出したとき、その手のふるえようといったらありませんでしたから、青ひげは、すぐとかんづいてしまいました。
「おや。」と、青ひげはいいました。「小べやのかぎがひとつないぞ。」
「じゃあ、きっと、あちらのつくえの
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