ようなものだ。
四二頁に「呼吸の具合は平常の通りで木刀の先が浮いて見えます」と書いてあるが、「浮いて見える」という言葉は、普通落着かぬ意味に解せられる。これも用例が違っているように思う。
五二頁になると、場面は江戸のことになって、本郷元町の山岡屋という呉服屋へ、青梅の裏店の七兵衛という者が訪ねて来る。そうして山岡屋の小僧に向って、「旦那様なり奥様なりにお眼にかゝりたう存じまして」と言っている。また奥様だが、これもいけない。「旦那なりおかみさんなり」と言わなければならぬところです。町家で「奥様」というのは、絶対にあるべからざることで、この近所にいくつも「奥様」という言葉が出てくるが、そんなことは江戸時代には決してない。
五三頁に「以前本町に刀屋を開いておゐでになつた彦三郎様のお嬢様」ということが書いてある。刀屋を開いている、なんていう言葉も、この時代に不相応なものだ。お嬢様もお娘御と改めたい。
五七頁になって、七兵衛に連れられて来たお松という小娘が、「そんな筈は無いのよ」と言っているが、これもおかしい。もう十一二になっている娘、今こそ零落している様子ですが、以前は相当の町人であっ
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