疑ってやしない』
『ですが外《ほか》の連中が……』
『外の連中? もし連中が俺を陥れるのを利益と思うなら、ずっと前に行《や》っていなきゃならない。五月蠅く思っているくらいのもので別に恐れていやしない。ではビクトワール、五時の鐘が合図だよ』
 今一度ルパンを驚かすことが起った。それはその晩に婆やが寝室の抽斗を開けて見たら、例の水晶の栓が這入っていたと告げたことだ。しかしルパンは、別に顔色にまでは驚きを見せず簡単に言ってのけた。
『じゃ、誰か持ちもどったんだ。あの品物を持ち戻った人間! それは俺と同じようにこの屋敷に忍び込んでいるにちがいない。しかしその水晶の栓を何の重要さもないごとく抽斗の中へ放り込んで置くとは! これや考えもんだ。』
 ルパンは考え物だとは言ってみたものの、何等そこから纏《まとま》った判断、または意見を引き出すことが出来ないので、かなり当惑した。しかしちょうど隧道《トンネル》の出口に見るような薄明りがぼんやりと射しているような気がした。
『この調子では俺ときゃつ等の間に激烈な競争の起るのは免《まぬ》かれ難い。その時こそ俺が優勝の地位を占めるんだ』と考えた。
 かくて何ら
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