実際妙不思議だね。まるで手品のようだ、少し暇になったらお伽噺《とぎばなし》を書くぜ。題に曰《いわ》くさ、魔術の栓またの名はアルセーヌ大失敗の巻……アハハハハ羽が生えて飛んでいったんだよ……。俺の懐中からパッと消えてしまったんだ……。まあいいからお帰り』と彼は乳婆《うば》を押しやりながら、真面目な口調になって『お帰り、ビクトワール、別に心配することはない。誰か、お前から俺があの栓を受取るのを見ていて、人込みを利用して、俺の衣嚢《ポケット》から掏《と》ったに違いない。これは俺たちの思っているよりもいっそう手近い処で吾々を監視している者があり、かつそれが一流の玄人だと言うことを証明している。だが繰返していうが心配することはない。正直な人達は神様が護ってて下さるんだ。ところで、婆や、外《ほか》に話すことはないかい』
『ええ、昨晩、ドーブレクさんの出かけた留守に誰れか来ました。私は庭から窓に映っている影を見ました』
『すると警視庁の連中はまだ捜索を続けているんだね。それはそうと、婆や……もう一度俺をかくまってくれんか、何も危ない事はないじゃないか。お前の部屋は三階に有るんだし、ドーブレクは何も
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