の中から小さな品物を取り出して彼の手に渡した。ルパンは茫然とした。手には水晶の栓を握っている。
『ほんとかい? ほんとかいこれは?』
 と呟いた。余り無造作に手に這入《はい》ったので、むしろ一種の失望をさえ感じていた。
 しかし、現実の事実である。目に見る事も出来れば、手に触《ふ》るる事も出来るのだ。その形、その大いさ細かい金線の飾り、まぎれもなく彼がかつて手にしたことのある水晶の栓に相違ない。目につかぬほどの微細な傷がその栓の頸の処にあるものと見覚《みおぼえ》がある。品物に間違いはないが、うち見たところ、何等変った点もなく、ただ一個の水晶の栓に過ぎない。他の栓と区別すべき何の特徴もなければ、何の記号も印もない。一個の印を刻んだに過ぎないもので、別に不思議な点も見当らない。
『何だいこれは?』
 ルパンはふと疑惑に捉われて云った。この水晶の栓に附随する価値を知らないで持っていた[#「持っていた」は底本では「持つたゐた」]処が何の役に立とう。ただ硝子の一片に過ぎないんだ。これを手に入れる前に、まずその価値を知らなければならない、ドーブレクからこれを奪い取って見たものの、それが馬鹿げたこと
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