……おっと、貴様、逃しはせぬぞ』
と云いつつ突然ぐいと猿臂《えんび》を伸ばしてルパンの襟頸《えりくび》を掴んだ。何たる無礼の振舞だ!ルパンたるものいかにしてかくのごとき暴戻《ぼうれい》に忍び得よう。いわんや婦人の面前である。彼が同盟を提議した婦人、しかも最初見た時から並々ならぬ美人だと思ったとおり繊妍《せんけん》たる容姿楚々たる風姿、その婦人の面前にあってどうしてかかる屈辱を忍ぼうや。満身の自負心は鬱勃《うつぼつ》として迸《ほと》ばしらんとする。しかし彼は黙然としていた。そして肩に受けた無双の大力に押されて、意気地なくも身体が折れ屈《か》がむまでに押え付けられてしまった。
『ああ、意気地無し、もうへたばるのか』と代議士は嘲笑した。
舞台の上では大勢の役者が立廻りの最中、大騒ぎをやっていた。ドーブレクは絞め付けた手を少しくゆるめた。ルパンはこの時にとばかり拳骨を堅めてちょうど斧で打殴る様に敵の腕節《うでぶし》を発止と突き上げた。
苦痛にドーブレクのたじろぐ暇に得たりとばかりルパンは身を起して奮然彼の喉に突きかかった。しかし敵も去るもの、パッと身をかわして、退くと同時に腕を延ばしてル
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